April. 19. 2013

村上春樹さんの新刊に思うこと

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作家の村上春樹さんの新刊が4月12日に発売され、
メディアでも大きな話題となりました。

『色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年』

というのが本のタイトルです。

近年(特に2009年にイスラエル文学賞を受賞以降から)村上春樹さんは、
自らが生きている時代への貢献ということをはっきりと明言するようになってきました。



このような考え方自体は震災~オウム真理教の事件以降に芽生えたものだそうですが、
「それで、自分は何をすべき」ということをしっかりとした思想として
発信するようになったのは、旧来のファンからすると驚くべきことでした。

この作品を通じても、かつての作品のような謎めいたファンタジックな余韻よりも、
現実的でゴツゴツとした確かなメッセージを残すことに注力されています。

長年のファンとしては、その変化が楽しめることはもちろんのこと、
新たな読者にとっても、深く心に刺さる物語であることは間違いないと感じました。

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さて、ところで、村上春樹さんの小説には、デビュー作以来、
かならず最初から英語のタイトルがつけられています。

「Colorless Tukuru Tazaki and the year of his Pilgrimage」というのが英語タイトルです。

本書を未読の方のためにすこしだけ説明すると、
主人公の「多崎つくる」には、
高校生時代を通じてかけがえのない友人グループがありました。

しかし彼は、みずからの名前が色彩をもたない、ということで
友人たちの中から浮き上がっているのではないかと常に感じています。
(他の友人たちは名前に色を表す漢字が含まれているのです)

しかし物語が展開するうちに、彼自身が感じていた疎外感は誤解にすぎず、
多崎つくるが存在したからこそ、その友人グループは調和がとれていたのだということが、
次第に明らかになってきます。

言ってみれば、
「色彩をもたない」=「無個性」というような負のイメージが、
「色彩をもたない」=「あらゆる色彩との調和」という正のイメージに転換するということです。

この本を読んで、まさしくこれはジュエリーにおける「ダイヤモンド」のようだと感じました。

Colorlessはジュエリー業界では、ダイヤモンドを始めとした透明石を示す言葉として使われ、
決してネガティブなイメージではありません。

そして、もちろんダイヤモンドは美しく、あらゆるカラーストーンと見事に調和します。
また、単独でもしっかりとした存在感がある宝石です。

これはあくまでも仮説ですが、
村上春樹さんはこの小説にタイトルをつけるとき、
「色彩をもたない多崎つくると・・」という日本語ではなく
「Colorless Tukuru Tazaki」という英語を先に思いついたのではないかと感じます。

あるいは、勝手な思い込みかもしれませんが、
Colorlessの価値が「調和」であるという点が物語の大きな推進力になっており、
それがダイヤモンドの様であるというところに気づいたことにより、
今作品が自分にとって一層特別なものとなりました。


未読の方、
そんなことは一旦忘れて、
ぜひ深い物語の世界に潜行してみてください。

オススメです。


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 /村上春樹著 (文芸春秋)